まりきたみゅねらむ*/安全ダイビング講座~番外編~減圧症日記 |
皆さんお元気ですか?
この二年間、私は安全ダイビング講座という形で、ダイビングにかかわる様々な危険またそれの対処法などを”隊員機関紙TIDAK APA”に連載してきましたが、このたびその私が減圧症というダイビングによる病気なってしまいました。これでは今までの記事に説得力がなくなってしまいますが、今後皆さんが私と同じような病気にならないために恥を忍んで私の失敗談を書こうと思います。
その前に、減圧症の基礎知識。
ダイビングをするとタンクにある高圧の空気を吸うため血液に大量の窒素が溶け込みます。適切な深度、時間、浮上速度を守る限りめったなことでは起こりませんが、上記の3つが守られなかったとき、もしくは体調不良などの他の要因がからむと上記のものが守れたとしても、窒素が血液に溶け込みきれなくなり、体内で気泡化します。この気泡が、血液の循環、神経の伝達などの様々な身体機能の妨害をし、ひどいときには死にいたります。
それでは減圧症日記の始まりです。
11月某日。国立公園調査のためNGOと一緒に体調が悪いがダイビングをする。
(注1:体調が悪いときはダイビングをしてはいけません。減圧症のリスクが格段に高くなります。)
しかも、二本目が終わるときダイビングコンピューターで深度を見ると、水中にいるのにすでに0mをさしているではないか。ということはこのダイビング中、間違った深度を指し続けたことになる。
(注2:機材の点検は潜る前に入念にしましょう。ダイビングコンピューターの故障による減圧症は数多く報告されています)
家に帰ると、体がだるいがもともと体調が悪かった上、熱を測ると38度近くあったので風邪と判断し家で休む。しかし、この時点ですでに4日も経っていた。
(注3:減圧症がある恐れがあるダイビングをした場合、少しでも体調が悪ければすぐ病院へ行きましょう。早く行けば、早く行くほど治りも早いし、後遺症が出る確率も低いです。理想は、ダイビング終了後4時間以内に再圧治療だそうです。時は金なり、善は急げです。)
バリのデンパサールのSANGLAH病院に行き、症状を言うとあっさりと減圧症1型と診断され再圧チャンバーに入れられる。しかし、1型との診断が私の困難な治療の始まりとなるのであった。
(注4:減圧症には、間節や筋肉などの組織に窒素の泡ができて痛みを伴う1型と脊髄に泡が入り神経伝達などを阻害する2型。その他にも肺や脳に泡ができるエアーエンボリズム(空気血栓)がある。)
(注5:再圧チャンバー
減圧症治療に使われる機器。宇宙船のようなカプセルに入り高圧をかけて体内の泡をつぶすと同時に酸素を吸入し窒素を排出する。
SANGLAH病院の治療ではインドネシアの医療事情を目の当たりにしてしまった。鉄のカプセルの中に入って圧力をかけるので、外部で圧力と酸素を絶えずモニターする必要があり、内部にも緊急用に看護師が入る必要がある。しかし、この病院では私を一人でチャンバーに入れて、しかも外にいた付き添いの彼女の話では、全員がご飯を食べに同時に出かけてしまっているのである。何かあったらどうすんだと思っていたら、本当に何かが起きてしまった!何度目かのチャンバーのときいつものように一人で中に送り込まれ圧力をかけ終わったところでマスクをして酸素を吸おうとすると、なんと吸えないではないか!あわてて外に身振り手振りででマスクで呼吸できないことを伝えると、外は騒然としてしばらくしたら、外から彼女が窓越しにメモを見せてくれそれによると、、酸素の残量を確認しないまま私を入れてしまったため、看護師がドクターに怒られているという。外からの指示を待つと、マスクをゆっくり深く吸うとわずかに酸素が出てくるのでそれを吸いながら圧力を下げるというのである。酸素を吸わなかったり、急激に圧力を下げると減圧症が悪化してしまうので、仕方ないので二時間も残り少ない酸素を吸いながら耐えたのである。腹立たしいのはチャンバーから出ると誰一人謝らない。カシアーン(かわいそう)だの、休日だから酸素が送られてきてなかったと見当違いの言い訳だのばっかりである。
(注6:インドネシアの場合きちんとした施設があるのはジャカルタとスラバヤの海軍病院のみであると言っても過言ではない。バリは上に述べたような状況だし、マカッサルの状況も某氏によると決して良好とは言えない。可能なら早めにジャカルタに移動しましょう。だたし、高所には行けないので飛行機は不可!!ただし、意識不明、下半身不随などの重度症状の場合はヘリコプターの低空飛行による緊急輸送も可能である。)
一向に症状が改善しないのと、上記のようないい加減な治療態度のためジャカルタにある海軍の病院に変える。そして、診察するとあっさりとその症状は減圧症2型で脊髄にダメージを受けていると言われる・・・。しかも、バリの治療では脊髄の泡は消えないとの事である。さらに、2型の治療が遅れているため後遺症が残る可能性が高いと夢も希望もないことを言われる。しかし、落ち込んでもいられないので、バリでは行えなかった165Ft(約55m)の深さと同じ圧力をかける治療を行う。結果、全快はしないもののバリのときより格段に症状が改善する。その後も三週間にわたり治療を続けるが結局、指先の痺れと、周期的な左手のだるさ、痛みはとれず、医者に後遺症と判断され治療は終了した。
しかーし、ここであきらめるわけには行かないので、西洋医学で治らないものは東洋医学だ、ということで鍼灸隊員による鍼灸治療!また、その後続けている様々なリハビリによって、少しづつ痛みや痺れは引いており、私的には未だ治療は道半ばで、すべての症状をなくすことが目標である。ただこれは教訓を得るためだけにしては、多大なコストを払ってしまったといえる。ダイビングを10年以上、何千本と潜ってきていろいろな意味で慢心があったのであろう。
減圧症になっておいてなんですが、ダイビングは適切なルールの元で潜れば決して危険なスポーツではありません。ただ、体調が悪いのに無理したり、ガイド任せで自分で深度や時間の管理を怠ったりすると危険度は格段に上がります。初心者もベテランももう一度自分のダイビングを見つめなおし、安全で楽しいダイビングライフを送ってください。
最後になりますがこの場を借りてお世話になった方々へ改めてお礼を言わせていただきます。
(*まり きた みゅねらむ…インドネシア語で、「さあ潜ろう!」の意(mari kita menyelam!)。)