マハカム紀行6 ~ 再開のときまで 第97号(2001年 6月発行)より |
マハカム紀行5が2000年8月であった。その後2000年12月、2001年2月、2001年6月と3回マハカム水系に行った。ここでは2001年6月の道程を中心にしつつ、あとの2回についても併せて紹介したい。コースは3回ともほぼ同じである。メインコースはマハカム紀行5と同じコタバングン~タンジュンイシュイ~マンチョンであり、12月と2月の時はこれに1本支流が加わっている。
6月某日9:00協力隊員Y氏とともにバリックパパンを出発。
15:00コタバングン着。すぐに知り合いのチェスの運ちゃん(ジュリ氏)に出会い夕方の定番コースに行く旨を伝える。
15:30宿(Penginapan Mukuzizad)に荷物を置いたあと出発。今日は時間の余裕があるため、すぐに湖の方角へは行かずとりあえずマハカム本流を遡上することにする。1時間ほど上流に上るとムアラウィス(MuaraWis)へ到着。その少し先の地点にサルが多いポイントが前にあった。(マハカム紀行4)。スピードを緩めつつ探す体制に入る。が、あまり居る気配がない。結局30分ほど探してシルバーリーフモンキーが一群だけだった。その後コタバングン方面にぶっ飛ばしてそのままスマヤン湖に入る。いつも行っているプラ村の少し先の水路に入ってサルを探す。カニクイザルが一群、シルバーリーフモンキーが一群。私が一番初めに来た2年前に比べて明らかにサルの数が減っている。前は良く見れるポイントだったのだが・・・・この調子ではあと2年もするとここでは見れなくなるかも知れない、という考えすら頭をよぎる。
この時点で18:00を少し回っている。で、いつものとおりイルカを探すべく湖の中心に舟を進めようとする。運ちゃんとポイントの打ち合わせをしている時、Y氏が「イルカだ!」と叫んだ。私はこの2年で計8回イルカを探していて未だに出会えずに居るのである。そう簡単に見つかるはずがない。しかしY氏は「絶対にイルカだ」と言い張るのである。で前の方を眺める。ボコッ、ブシューッ、チャプ。本当だった。ボコッ、ブシューッ、チャプ。また出てきた。確認した頭数は4頭。一番大きい固体で2mほど。1mほどの子供が2頭。その間ぐらいの大きさのものが一頭。色は逆光だったのでやや黒っぽく見える。動きは普通のイルカと違い非常にのんびりした感じだが、それがまたこのスマヤン湖の夕方の穏やかな風景に非常に合っている。イルカ達はどこかへ行くと言った雰囲気ではなくただ同じ場所で遊びまわっていると言う感じだ。ほぼ同じ位置で何回も何回も出てきてくれた。時間にすると5分ほどの邂逅だった。この日は満足してコタバングンに帰投。
尚、このイルカは和名イラワジイルカといい、本来は海洋性のシャチに近い仲間である。このマハカム水系にだけ完全に淡水に適応して生息している。しかしこのところ環境破壊等の影響で激減しておりここ数年のうちにマハカム川産のものは絶滅するのではないかと言われている。以前ここで捕獲された個体がジャカルタのアンチョール公園で飼育されていたが私が見に行った時は既に死んでいた。
翌日、朝7時出発しようとしたところ豪雨。今は乾季の真っ只中である。話を聞くとY氏は雨男らしい。1時間ほどすると止んだので出発。
プラ村近くの水路ではカニクイザルとシルバーリーフモンキー。そのあと、スマヤン湖、ムリンタン湖を抜けて細い水路に入る。で、愕然とする。水路沿いの木がまったく無くなっている。見渡す限りだ。2001年2月の旅行の時から伐採は始まっていた。その時は伐採の始まりであったらしく奥にいたテングザルやほかのサル達が水路沿いのわずかな森林に群がっていたのが印象的だった。が、今回の時点ではそのわずかな森林すらも残っていない。痛ましい光景だった。
その後ムアラムンタイ(MuaraMuntai)からジャントゥル(Jantur)に抜ける途中の水路でテングザルに出会う。2000年12月の時はこの水路からさらに支流(ムアラクダン川;SungaiMuaraKedang)に入っていき2時間ほど上った町ムアラクダン村まで行った。その時は確認しなかったがその村からさらにさかのぼるとサルが多くなるらしい。この日は支流に入ることはなく、そのままジュンパン湖を突っ切ってタンジュンイシュイに到着。11:30。タンジュンイシュイで別のチェスの運ちゃん(イシュル氏)と出会いマンチョンまでのガイドを頼む。昼飯後12:00過ぎに再出発。
タンジュンイシュイ~マンチョンに至るまでにはタンジュンジョネ(TanjungJone)、ムアラオホン(MuaraOhong)、ここから支流ムアラオホン川に入り、タンジュンセラン(TanjungSerang)、ペリギッ(Perigiq)という集落を抜けていく。この3回の紀行でタンジュンセラン~ペリギッは非常に着生ランの多い地点であることがわかった。この3回で17種採集している。舟に乗りながらランがあったら止めてもらい近づいて木に登り採集しながら進んでいく。ふと上の方に大型の未採集種があった。で、採集すべく木に登る、が大型のアリの襲撃にあい、ずるずる後退。運ちゃんに聞いてみる「いけるか?」「楽勝」彼はするすると登り難なくゲット。やはりここのガイドは彼が良い。
動物達についてだが今回はカワセミが非常に多かった。2000年12月、そして2001年2月は非常に密度が薄かったことを考えると乾季にはこの川沿いに集まって来ているものと思われる。その他、フィッシュイーグル、サイチョウ、オオバンケンとここで見れる大型の鳥は一通り見れた。Y氏は雨には降られるがなかなか運が良いようだ。サルの仲間はテングザルとカニクイザル。前からこの水路ではシルバーリーフモンキーが見られない。16:00マンチョン到着、帰りのことを考えそうそうに引き上げることにする。ペリギッを過ぎたあたりで辺りは暗くなりすさまじい豪雨に見舞われる。2000年12月の時も同じ場所で雨に降られたが当時は雨季である。ここ1ヶ月ほどほとんど雨が降っていないと言われている中この豪雨をもたらしたY氏は偉大だ。私のような旅行者にとっては良い迷惑だが・・・。帰りではペリギッの少し手前で至近距離でテングザルのオスに出会う。10m以内の距離だ。Y氏は無事に写真に収めることが出来たようだ。その後は雨の影響もありほとんど動物には遭えなかった。ムアラオホン川から湖に戻りタンジュンジョネ周辺で少し動物を待つために舟を止める。というのも、ここでは2000年12月の際にコツメカワウソの群れに出会えているからだ。その時は20頭近くの群れが立ち上がりこっちの方を伺っていた。こちらが少し近づくと彼らは少し遠ざかる。というように決して一定距離以上に近づくことは出来なかったがとにかく仕草が可愛い。是非もう一度、と願ったが今回は会えなかった。19:00タンジュンイシュイ着。旧友ヌル氏に会いマレーハコガメを買い取る。
3日目。最終日。ダヤック人のチェスの運ちゃんとともにムアラムンタイそしていつもの湖を通るルートではなくマハカムの本流を通ってムアラウィス、コタバングンというルートを選ぶ。ムアラムンタイ手前の森でカニクイザル、ムアラウィス手前の森でテングザルに出会う。12:00コタバングン着。コタバングンで昼食後、サマリンダそしてバリックパパンへと向かった。これでしばらくの間マハカム川とはお別れである。次に会う時まで川の表情、そして動物達がかわらず迎えてくれること、とくに最後の最後でやっと出会えたイルカ達、彼らの姿があの穏やかなスマヤン湖の景色から消えて無くならないように願って止まない。