インドネシアのシルク |
養蚕センターで活動を始めて、ほぼ1年8か月が経ちました。今までの活動の中心は、インドネシアの気候、風土にあった蚕の品種の開発でした。ビリビリにある養蚕センターには、日本をはじめいろいろな国から来た蚕の品種があります。また、インドネシアで、昔から飼育されてきた品種も2品種あります。活動では、この2品種を中心に、品種開発を進めてきました。
今回は、家蚕を少し離れて、インドネシアの野蚕について、話を進めていきたいと思います。前回の報告で、蚕には家蚕と野蚕があることを説明しました。家蚕は桑の葉を食べ、飼育室(家)の中で飼うことができます。しかし、世界中に沢山の種類がいる野蚕は、一部を除いて飼育室の中では飼うことができません。それではインドネシアの野蚕を見ていきましょう。
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1.クリキュラサン
(クリキュラサンの幼虫)
(クリキュラサンの成虫)
インドネシアの代表的な野蚕は、なんと言ってもクリキュラ蚕です。繭の色は黄金色で、日本では黄金の繭と一時話題になりました。クリキュラ蚕は、マンゴ、アボカド、カシューナッツなどの葉を食べる害虫でもありますが、日本の野蚕学界、ジョグジャカルタの王室、ガジャマダ大学などの協力により、繭から糸を作ることが出来るようになり、その製品がジョグジャカルタのヤーシルクというお店で販売されています。クリキュラ蚕を使うと、一つの木から果物を収穫し、クリキュラの幼虫を放って繭を収穫するという、一石二鳥の仕事ができます。クリキュラ蚕はインドネシアにしか生息していませんので、この糸から作られた製品は、まさにインドネシアン・シルク製品です。クリキュラサンは、大変よく動き回るので、家蚕のように家の中で場所を決めて飼育することは困難です。
(クリキュラサンの繭)
2.ヨナクニサン
次は、ヨナクニサンです。名前のとおり、日本では与那国島で多く見られたことから、この名前がつけられました。インドネシアでは学名をそのまま使って、アタカスと呼んでいます。このヨナクニサンは世界最大の蛾と言われています。
(ヨナクニサンの成虫(メス))
生息範囲はかなり広範囲で、日本の八重山諸島、台湾、中国南部そして東南アジアに広く分布しています。それぞれの地域で、色、大きさ、翅の模様などに多少の差があります。インドネシアでも、ジャワ島のものとスラウェシ島のものでは色が少し違うようです。
(ヨナクニサンの幼虫)
養蚕センターでジャワ島から送られてきたヨナクニサンの雌のさなぎが羽化しました。残念ながら、同じ時期に雄のさなぎが、羽化しなかったので、これでは受精卵が取れないとがっかりしたのですが、なんとスラウェシ島のヨナクニサンの雄が飛来して来ました。そうです、養蚕センターがあるビリビリにも、ヨナクニサンが棲息していたのです。彼らは、無事交尾し、私達は受精卵を確保することができ、その後、無事孵化して、飼育することができました。このヨナクニサンの繭からも、絹糸を紡ぎ、絹製品も出来ます。
(飛来したオスのヨナクニサンの成虫)
3.ヤママユ
(ジェネポントのヤママユ)
(ビリビリのヤママユ)
次に紹介するのが、インドネシアのヤママユです。インドネシアにヤママユの存在を知ったのは、他のボランティアの人が撮った1枚の写真からです。その写真に写っているものが、日本のヤママユにそっくりだったので、もしかしたら日本のヤママユがインドネシアにも生息しているのかと少し期待してしまいました。というのは、日本のヤママユは、天蚕といわれ、その繭から取れる絹糸は大変高価なものだからです。そのヤママユが見つかったのは、私の配属先からそう遠くないジェネポントというところでした。そこの情報では毎年4月頃に沢山ヤママユ蛾が見られるということなので、ジェネポントからの情報を待ちましたが、残念ながらボランティアが帰任したこともあり、その後、情報が来ませんでした。
ところが驚いたことに、私の配属先のあるビリビリでこのヤママユ蛾を配属先の職員が捕まえてきてくれました。また、それが雌だったので卵まで確保することが出来ました。そして、見事この卵から幼虫が孵化してくれました。この幼虫がどのような植物の葉を食べるのか、わからなくて困りましたが、何とかカシューナッツの葉に食いついてくれて、飼育することが出来ました。この幼虫は日本のヤママユにそっくりなので、ひょっとしたら繭も日本のヤママユ(天蚕)と同じ緑色ではないかとわずかに期待しましたが、残念ながら薄い茶色でした。
しかし、この繭は天蚕、サクサンと同じ仲間ですから、長繊維を繰糸することが出来るかも知れません。ただ、いろいろと研究しなければなりませんが・・・
(ヤママユの幼虫)
(脱皮中のヤママユの幼虫)
(ヤママユの繭)
ヤママユおよびヨナクニサンの幼虫は、あまり動き回らないので、切ってきた食草を水の入ったビンに挿し、そこに幼虫をつければおとなしく食べてくれます。ただ、気をつけなければいけないのは、どちらの幼虫も水を飲みますので、たまにビンの水を飲もうとして、中に落ちて溺れてしまう、どじな幼虫もがいることです。そんな時には、食草に霧吹きで水をかけてあげると、その水を飲んで、溺れるようなこともありません。
4.名前の判らない野蚕
(名前の判らない野蚕)
さて最後に、とても成虫が綺麗な野蚕を紹介します。名前も判りません。やはり養蚕センターの職員がビリビリで捕獲してくれました。たぶん日本のオオミズアオの仲間だと思いますが、繭がどんなものなのか、幼虫の色、姿などはわかりません。
これまで紹介しました野蚕のうち、クリキュラサンとヨナクニサンは、ここインドネシアで絹糸が作られ、販売されています。これらの糸を使って素敵な絹製品が出来て、インドネシアン・シルクとして有名になれば良いなと思っています。特にクリキュラサンは、インドネシアにしか棲息していないのですから、まさにインドネシアン・シルクです。家蚕から作られた絹製品もとてもすばらしいものですが、これらの野蚕の絹製品は、それぞれ独特の風合いがあってすばらしいものです。皆さんも機会がありましたらお試しください。